空間について

空間をつくるということは、どのような事なのでしょうか?
建築家は建物を設計し内部に空間を作り出すことを仕事としています。
また美術家も時に空間を作り出します。
大規模なインスタレーションはもちろんのこと、彫刻等を置くことによっても、
そこに空間は作り出されます。

しかし、この空間という言葉、考えれば考えるほどその定義は難しくなってきます。

僕は、建築を少しかじったものですから、
この言葉の意味、また空間をつくりだすということは、
どういうことかずっと考えていました。

大学3年の夏、
ヨーロッパ旅行でポンピドゥー・センターを訪れた時、
偶然、この部屋に出会いました。(冒頭の写真)
そしてこの部屋を経験することで
「空間をつくる」ということが、どういうことか直感的に分かったような気がしたのです。

この部屋は、美術家ヨーゼフ・ボイスによって作られました。
彼が作品でよく使用する軍用のブランケットが丸められ、壁面一体に張り付けられています。

視覚的には、たったそれだけの構成です。
しかし、実際に訪れここに身を置いてみると実に多くのことを感じさせてくれました。

私は、展示室の一角にあるこの部屋に入ったとたん、全く違う所に入ってきたと感じたのです。
そこに流れる、時間・空気の質が前室と全く異なっていました。
その部屋に流れる濃密な空気。
それを肌で感じた瞬間、「空間をつくるとはこういうことなんだ」と思いました。

それは、空間を作る事=空気をつくる。ということです。
実際に訪れた空間には、匂いがあり、手触りがあり、音がある。
視覚から得られる情報だけでなく、
全細胞を駆使して知覚するものなんだということが感じられたのです。

では、どのように「空気」が作られているか見てみましょう。
この部屋では、周囲一面に貼られたブランケットが
その効果を生みだしています。
ブランケットは、音を吸収し、
また、断熱材として作用し部屋の温度を高温に保っているのです。
それが結果として、人に濃密な空気を「知覚」させるのです。
ここには「空気」を生み出す要素となるものがしっかり存在しているのです。

さて、この視点はこの空間だけに適用されるものではありません。
五感を研ぎ澄ませ、知覚というキーワードで、他の空間を体験してみてはどうでしょう?
そして、その「空気」が何によるものか注意深く観察してみて下さい。
きっとそれが、空間を読み解くきっかけになることでしょう。